成義の帰還

 
「和夫です」
「成義です」
「おかえりっ」
「・・・」
「あ、今のなっちのモノマネな 昔のミュージカルのやつ」
「た・・・ただいま・・・」
「なんだよなんだよ どっかの初号機パイロットみてーな辛気臭い顔しやがって」
「あ、えっと・・・いろいろご心配をおかけしました」
「んなこたぁねえよ マチ子さんとか、すげーケロッとしてたし」
「もう、2度とこういうことのないようにしたいと思います」
「いやいや、こんなときぐらいは休んでも仕方ねえよ ショック引きずったまま出られても困るし」
「いえ、今回僕が逃げ出したのは、自分自身が嫌になったからなんです」
「あ? なに?」
「僕は・・・栞菜の休養が発表されたとき、戻ってくることを信じると言いました」
「あー、それはヲタならみんなそう願うだろうよ」
「でも・・・僕は何度か・・・栞菜が戻らないんじゃないかって、思ったことがあるんです・・・」
「うん、そりゃあ不安になるわな」
「違うんです 信じるって言っておきながら、最後まで信じれなかった自分が、許せなくなったんです」
「いやいや、そんぐらい葛藤の範囲内だろ そんなの誰にでもあるって」
「信じてあげなきゃいけなかったのに! 僕には、それぐらいしか出来ないってのに!」
「だから厳しすぎだってばよ 何なのその武士道スピリッツは」
「・・・そんな怒りに任せて、自転車を走らせました」
「青春ドラマみたいだな」
「僕のバカ! 僕のバカ野郎! 裏切り者! 人間のクズ! って思いながら、こぎ続けました」
「怖ぇなあ・・・ 『青の炎』の人みたいにならなくて良かったよ」
「そうしているうちに、ずいぶん遠くまで来てしまいました」
「ここから大阪までって・・・400kmぐらいだよな、たしか」
「そしたら、急にパンッ!って」
「タイヤがパンクしたんだな」
「タイヤが・・・パンッ!ですよ パンッ!」
「ああ」
「パンッ!て ・・・くくくっ」
「・・・笑い出したよ・・・」
「あー、今の僕、このタイヤと一緒だな、って思っちゃって ははははっ」
「はぁぁ!?」
「もうね、そこで吹っ切れました」
「まったく理解できねえな 苦行の果てに辿りついた悟りみたいなもんか?」
「というわけで、今日からまたバシバシいきますよ!」
「まあ、バシバシいくのは構わんが、ブログを無断でサボった罪は罪だ」
「はい」
「というわけで一週間、成義くんには独房に入ってもらうからな」
「はい」
「・・・いや、ここは100パー突っ込むとこだろうよ」
「え べつに独房でも構いませんけど」
「急にそんなもん用意できるわけねえだろ SMクラブのオーナーじゃあるまいし」
「え、じゃあ、僕はどうすれば・・・」
「マチ子さんに礼言っとけば、それでいいよ 代わりにやってくれた分な」
「あ、あいつには土産買っといたんで、それ送りますよ」
「ジャニショとかいう店で買ったやつか」
「ええ あそこで男が写真買いまくるのって、ある意味バツゲームですよね」
「なんだよ 若い女の子だらけの店で楽しくやりましたよ、ってか!?」
「べつに、楽しくもないですよ 恥ずかしいだけだから」
「あー、ひきこもりの俺への当てつけですか そうですか いいですねー若い者は若い者同士よろしくやっちゃってさー」
「・・・なんか、カズさんは全然変わらないですね」
「お、なんだなんだ? 『僕は成長しましたよ』ってか? チャリで爆走したぐらいで調子のってんじゃねーぞ! この青二才が!」
「ふぅ、まったく・・・」